文学の凝縮、アイドルの拡散

移転です

読書記録をつける場よりも、小説についてもう少しちゃんと考えて書きくだす場がほしいと思って、ブログをnoteに移転することにしました。 https://note.com/thinknovel

小説の書きかたについて

過去にこのブログに書いた読書感想や雑記を見返すとふしぶしで気持ち悪い文章だなあと感じてしまい、それは自分のなかに変化があったことを裏づけると思うのだが、時間をへて物事の考えかたが変わったというよりは言葉や文章に対する感覚が変化したんだと言…

しばし休止しようかな

このブログはしばらく更新されていなかったが、本を読んでいなかったわけではなく、むしろここ一、二ヵ月はいままでで一番といっていいくらい読書にふけっていて、といってもそもそも継続的に本を読めるタチじゃないから、いまもせいぜい毎日五十ページ程度…

104.上田岳弘『太陽』

人、土地、時間がめまぐるしく入れ替わり立ち替わりしながら、時間・空間的に大きなスケールで描いています。 人物同士の巡り合わせや節々のナレーションなどの妙にわざとらしい感じも、結局取り合わせの喜劇的なスパイスや切実な抒情表現の下支えを受けて、…

103.長嶋有『サイドカーに犬』

吉村萬壱『クチュクチュバーン』と2001年文學界新人賞を同時受賞した作品ですが、こちらは対局的に、平凡な世界の日常的な風景が描かれます。 とはいえ何気ない描写のなかに、スプーンひとさじの旨味が詰まっていて、読み応えがあします。 冒頭引用したかっ…

102.吉村萬壱『クチュクチュバーン』

一カ所に留まっていても仕方がない、とは誰もが思い、人々は移動をやめなかった。混 乱は続いていたが、何が起こりつつあるのかまったく分からないという人間は少なくなっ てきていた。 それでもこんな質問をする子どもがいる。 「母ちゃん、怖くないか?」 …

101.千葉雅也『デッドライン』

前回の更新から三か月以上空いてしまいました。 実際その間、これといって本やら映画やらに触れていなかったような気がします。 小説はひとつ書きました。 これからもじゃんじゃん書いていく所存です。

100.大島渚『戦場のメリークリスマス』

1983年公開のいわずとしれた有名作品。 よいカットが連続している。よいカットというのは絵画性、詩性を有する、それ自体鑑賞価値を認められるようなカットのことで、小説でいえば文体の力に通ずるような何かのことである。たとえばなにげない「つなぎ」のシ…

99.古井由吉『雛の春』

古井由吉の新作短編、相変わらずのほれぼれする文章。 通常の純文学作家が1ページに1つか2つ、その作家固有の表現を搭載しているとすると、古井はそれが一文ごとに出てくる。 夜には病院のすぐ近くの環状道路の立体交差を渡る車の音がゴトンゴトンと、昔…

98.古市憲寿『百の夜は跳ねて』

今回の芥川賞候補にあがりました、社会学者古市氏の『百の夜は跳ねて』。氏は前回につづき2期連続の候補入りです。個人的には、NHKで就活の話とかしているのをみて、この人あんま好きじゃねえと思っていたのですが、2期連続ノミネートするくらいの力があるな…

97.デヴィッド・フィンチャー『ファイト・クラブ』

1999年公開のアメリカ映画。平凡な社会生活への反発心から、主人公らは「ファイトクラブ」なる格闘クラブを立ち上げ、徐々に反社会的活動に手を染めていく話。 (文学的な描写としての)いいカットがところどころあった。が、後半のネタバレ以降は低調で、終…

96.円城塔『道化師の蝶』

円城塔はもともと大学の研究員で、『Self-Reference ENGINE』が小松左京賞最終候補となり、なんとこのとき伊藤計劃の『虐殺器官』も最終候補になっていて、結局受賞作は出なかったが、その後両作とも早川から出版された(小松左京賞自体は角川主催)。で、そ…

95.中村文則『土の中の子供』

中村文則が27か28歳くらいのときに書いた芥川賞受賞作。 冒頭からずっと読みやすい。それは、暴力や死がからんだ吸引力ある展開と、平易な語彙空間ながら処々に隠れたうまい表現がもたらしている。個人的には中村文則は、「大衆受けもする純文学」のひとつの…

94.金井美恵子『愛の生活』

金井美恵子が20歳のときに書いた処女作で、第3回太宰治賞の最終候補(1967)。 こういう作品にたいする向き合い方というのはむずかしい。最近よんだ伊藤比呂美『ラニーニャ』もそうだが、物語の輪郭が薄く、ふうがわりな言葉の運び方、センテンスのつなぎ方…

93.片渕須直『この世界の片隅に』

すこしまえにはやっていたやつ。もともと漫画、映画よりもっと不思議で怖い感じの。2016年に公開して、いまだ上映している場所があるらしい。 場面転換がハイスピード。戦争ものなのに心情描写がさらさらしていて、異常にねばりけがない。主人公が途中で右腕…

92.リュックベンソン『レオン』

1994年公開の映画。 おれも12歳の女の子からガチ告白されてえな、と思った。

91.大江健三郎『死者の奢り』

大江が22か23歳くらいで書いた70枚程度の小説。 本作『死者の奢り』と『他人の足』が当時の芥川賞候補、その次の回で『飼育』と『鳩』が芥川賞候補。で、『飼育』が受賞。 大江の作風であるが、「僕の体の深みに、統制できない、ぐいぐい頭を持ちあげてくる…

90.伊藤比呂美『ラニーニャ』

なんとなくブログのタイトルを変えた。以前のタイトルについてかねがね気持ち悪いと思っていたので。 伊藤比呂美は詩人だが、小説もいくつか書いていて、本作は芥川賞候補にもあがった。 まずもって、ああ、詩っぽい~、て感じがある。ろくに詩のことを知ら…

89.西加奈子『うつくしい人』

はじめてちゃんと西加奈子よんだ。 読みやすい。島のゴージャスなホテルに三十路女が一人旅してバーでふたりくらいの変な男と出会うという舞台設定がいい。エンタメっぽいというか定型っぽい書きつけも多いが、光る表現もところどころある。200ページもある…

88.ビートたけし『ホールド・ラップ(ラップ・アップ)』

たけしの小説はじめて読んだが、やっぱおもろい。逐一挿入されるリリックしかり、ギャグベースの文章だが、切実な感じが伝わる。 昼寝て、働く夜中のバイト! 寝ないで暴れた日米安保! みんな卒業、俺だけ迷子! ジャンジャン狂う生活テンポ! 四〇そこらで…

87.石倉真帆『そこどけあほが通るさかい』

最近は乱読乱筆、のつもりだができてたりできてなかったり、慢性的にお金がない、飲んでばかりいるので、女性とも、野郎とも、ひとりの夜は息が止まりそうになる、というのは乱暴すぎる表現、だが遠からず。 『そこどけあほが通るさかい』は今回の群像新人賞…

86.笙野頼子『極楽』

ふとしたときに気づく程度の雨音が、部屋のなかに所在なさを充填していく。 氏が25歳で書いた、群像新人賞受賞のデビュー作。 独特の芸術形態を追及する画家というキャラクターはありふれているが、地獄絵の形象、外界の観察と創作姿勢、どろどろとした思索…

85.今村夏子『こちらあみ子』

太宰治賞を受賞した氏のデビュー作。 「怪物」的少女を主人公にすえた小説で、三人称ながらunreliable tellerの書き方がなされているが、描写材料のとりあわせにささやかな心地よさが通底している。主人公の心情変化の足踏みといびつさ、会話の不通の描き方…

84.多和田葉子『かかとを失くして』

群像新人賞を受賞した氏のデビュー作。(とはいえその以前にドイツ語で小説を書いて賞とかもらっていたらしいけれど。) 奇妙でファンタジックな描写、というよりも感覚、しかし上等な何かが詩的な断片としてつぎつぎと横切り、織りこまれていく。偶発的で一…

83.奥野紗世子『逃げ水は街の血潮』

ひさかたぶりの更新。 小説をかこうかこうと思いながら結局かくことはなく、飲み会やら出会い系やら引っ越しやらにたたみかけられながら、学生最後の一か月はすぎていった。むろん小説や映画にふれることもなかった。 そして、正真正銘のフリーターになった…

82.デミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』

パステルカラーのダイスを転がすみたいに、めまぐるしく色とりどりのカットが展開していく。ミュージカル映画というのは、ミュージカルの挿入の反復によってフィクションの構造性が柔和になる。物語の輪郭線がうすくなる。いやむしろ、力強い破壊によって形…

81.松浦理英子『乾く夏』

デビュー作『葬儀の日』の約1年後に発表された小説。 自傷行為、ジェンダレスな愛情、ある種の選民思想、セックス、性機能不全、そういったさまざまな若気の断片が折り重なった、ふたりの女学生の交流。ここでは何かが、それはありていにいえば「こじらせ文…

80.町屋良平『青が破れる』

文藝賞を受賞した、氏のデビュー作。 全体を通して通俗的な「甘酸っぱさ」を漂わせながらも、確かなる文学。しびれるフレーズが多くみられる。芥川賞受賞作『1R1分34秒』と比較して、持ち味であるテクストの自在な運動はそのコントロールがぞんざいだが、感…

79.古川高麗雄『プレオー8の夜明け』

1970年芥川賞受賞作。「8」はフランス語読みで「ユイット」と読む。 第二次大戦後、戦犯容疑でベトナムに拘留された旧日本兵たちを描く。娯楽のため、檻の中で脚本を書き、演者をあつめ、演劇をやる主人公。設定がおもしろい。死の匂いのする、戦争文学の殺…

78.開高健『裸の王様』

開高健の芥川賞受賞作。 扱っているテーマは児童教育。児童にたいする大人たちの当を得てない思惑を、画塾の先生である主人公は気に食わない。 くりかえし述べられる教育論めいた話にはどこか既視感がある、しかし、その鮮烈な描写はけして風化していない。…