ふとしたときに気づく程度の雨音が、部屋のなかに所在なさを充填していく。
氏が25歳で書いた、群像新人賞受賞のデビュー作。
独特の芸術形態を追及する画家というキャラクターはありふれているが、地獄絵の形象、外界の観察と創作姿勢、どろどろとした思索のうねりが偏執的に反復され、それらのテクストの重量が切実である。
彼の心の中には憎悪で統括された”悪しきもの”の燃えさかる世界像が埋もれているはずであった。その試みはいわばあらゆる地獄から抽出した”憎悪”を絵画にして表すという行為だったのである。地獄は歴史と個人を洗い流し民族固有の教義や性格を取り去ってなお成立する、最終的には”憎悪”に還元する事のできる抽象概念として捉えられていた。(河出書房新社p52)