文学の凝縮、アイドルの拡散

90.伊藤比呂美『ラニーニャ』

なんとなくブログのタイトルを変えた。以前のタイトルについてかねがね気持ち悪いと思っていたので。

 

ラニーニャ (岩波現代文庫)

ラニーニャ (岩波現代文庫)

 

伊藤比呂美は詩人だが、小説もいくつか書いていて、本作は芥川賞候補にもあがった。

 

まずもって、ああ、詩っぽい~、て感じがある。ろくに詩のことを知らないけど。筋につかみどころがなくて、気を張っていないと書かれている文章が頭を素通りしてしまう。「あたし」の一人称小説なのだが、地の文における転換が自在で、記述の矛先は頻繁に切り替わり、使用される日本語そのものへのメタ的な言及もたびたびある。軽量でびみょうにアンバランスな言葉のつらなり、雲みたいなイメージが始終たゆたっている。

 

 エルニーニョが終わったそうですね。

 誰に聞いたか忘れましたが、聞いたのはたしかです。

 それで今度はラニーニャだそうですね。不思議な命名です。エルニーニョの女性形だということならわかります。

 今年の冬は雨だらけでした。

 豪雨と言っていいほどの雨がひんぱんに降りました。

 屋根は雨もりがして、床は湿気で膨張して、家の前の道路は水があふれました。あたしたち、こっちに、傘なんて持って来ませんでした。向こうじゃ何本も何本も持っていたんですが。(冒頭)