伊藤整文学賞を受賞したしっかりした批評本なのにわかりやすいです。
近代以降の短歌の変遷、そもそも短歌とは何か、プロの歌人はどのように短歌を鑑賞するのかといったことについて、たぶんかなり高級なことがわりと平易な言葉で分析されています。
本書の内容を簡単に(雑に)要約すると、
・近代短歌のあけぼのともいえる大きな転換は与謝野晶子や斎藤茂吉らによる「私」の獲得
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君(与謝野晶子)
・戦後に起きた転換は塚本邦雄らによる言葉のモノ化
・上記2つに匹敵する近年のモードは口語の導入
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ(俵万智)
・2000年代になってから、想いと「うた」の間に全くレベル差のない「棒立ちの歌」が見られるようになった
たくさんのおんなのひとがいるなかでわたしをみつけてくれてありがとう(今橋愛)
・ 短歌とは「生のかけがえのなさ」という根源的テーマが形を千変万化させているに過ぎず、(著者によれば自分を含めおそらくほとんどの)歌人はそのことを前提として短歌を鑑賞する
みたいな感じ、以上。