文学の凝縮、アイドルの拡散

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

86.笙野頼子『極楽』

ふとしたときに気づく程度の雨音が、部屋のなかに所在なさを充填していく。 氏が25歳で書いた、群像新人賞受賞のデビュー作。 独特の芸術形態を追及する画家というキャラクターはありふれているが、地獄絵の形象、外界の観察と創作姿勢、どろどろとした思索…

85.今村夏子『こちらあみ子』

太宰治賞を受賞した氏のデビュー作。 「怪物」的少女を主人公にすえた小説で、三人称ながらunreliable tellerの書き方がなされているが、描写材料のとりあわせにささやかな心地よさが通底している。主人公の心情変化の足踏みといびつさ、会話の不通の描き方…

84.多和田葉子『かかとを失くして』

群像新人賞を受賞した氏のデビュー作。(とはいえその以前にドイツ語で小説を書いて賞とかもらっていたらしいけれど。) 奇妙でファンタジックな描写、というよりも感覚、しかし上等な何かが詩的な断片としてつぎつぎと横切り、織りこまれていく。偶発的で一…

83.奥野紗世子『逃げ水は街の血潮』

ひさかたぶりの更新。 小説をかこうかこうと思いながら結局かくことはなく、飲み会やら出会い系やら引っ越しやらにたたみかけられながら、学生最後の一か月はすぎていった。むろん小説や映画にふれることもなかった。 そして、正真正銘のフリーターになった…