文学の凝縮、アイドルの拡散

2019-01-01から1年間の記事一覧

101.千葉雅也『デッドライン』

前回の更新から三か月以上空いてしまいました。 実際その間、これといって本やら映画やらに触れていなかったような気がします。 小説はひとつ書きました。 これからもじゃんじゃん書いていく所存です。

100.大島渚『戦場のメリークリスマス』

1983年公開のいわずとしれた有名作品。 よいカットが連続している。よいカットというのは絵画性、詩性を有する、それ自体鑑賞価値を認められるようなカットのことで、小説でいえば文体の力に通ずるような何かのことである。たとえばなにげない「つなぎ」のシ…

99.古井由吉『雛の春』

古井由吉の新作短編、相変わらずのほれぼれする文章。 通常の純文学作家が1ページに1つか2つ、その作家固有の表現を搭載しているとすると、古井はそれが一文ごとに出てくる。 夜には病院のすぐ近くの環状道路の立体交差を渡る車の音がゴトンゴトンと、昔…

98.古市憲寿『百の夜は跳ねて』

今回の芥川賞候補にあがりました、社会学者古市氏の『百の夜は跳ねて』。氏は前回につづき2期連続の候補入りです。個人的には、NHKで就活の話とかしているのをみて、この人あんま好きじゃねえと思っていたのですが、2期連続ノミネートするくらいの力があるな…

97.デヴィッド・フィンチャー『ファイト・クラブ』

1999年公開のアメリカ映画。平凡な社会生活への反発心から、主人公らは「ファイトクラブ」なる格闘クラブを立ち上げ、徐々に反社会的活動に手を染めていく話。 (文学的な描写としての)いいカットがところどころあった。が、後半のネタバレ以降は低調で、終…

96.円城塔『道化師の蝶』

円城塔はもともと大学の研究員で、『Self-Reference ENGINE』が小松左京賞最終候補となり、なんとこのとき伊藤計劃の『虐殺器官』も最終候補になっていて、結局受賞作は出なかったが、その後両作とも早川から出版された(小松左京賞自体は角川主催)。で、そ…

95.中村文則『土の中の子供』

中村文則が27か28歳くらいのときに書いた芥川賞受賞作。 冒頭からずっと読みやすい。それは、暴力や死がからんだ吸引力ある展開と、平易な語彙空間ながら処々に隠れたうまい表現がもたらしている。個人的には中村文則は、「大衆受けもする純文学」のひとつの…

94.金井美恵子『愛の生活』

金井美恵子が20歳のときに書いた処女作で、第3回太宰治賞の最終候補(1967)。 こういう作品にたいする向き合い方というのはむずかしい。最近よんだ伊藤比呂美『ラニーニャ』もそうだが、物語の輪郭が薄く、ふうがわりな言葉の運び方、センテンスのつなぎ方…

93.片渕須直『この世界の片隅に』

すこしまえにはやっていたやつ。もともと漫画、映画よりもっと不思議で怖い感じの。2016年に公開して、いまだ上映している場所があるらしい。 場面転換がハイスピード。戦争ものなのに心情描写がさらさらしていて、異常にねばりけがない。主人公が途中で右腕…

92.リュックベンソン『レオン』

1994年公開の映画。 おれも12歳の女の子からガチ告白されてえな、と思った。

91.大江健三郎『死者の奢り』

大江が22か23歳くらいで書いた70枚程度の小説。 本作『死者の奢り』と『他人の足』が当時の芥川賞候補、その次の回で『飼育』と『鳩』が芥川賞候補。で、『飼育』が受賞。 大江の作風であるが、「僕の体の深みに、統制できない、ぐいぐい頭を持ちあげてくる…

90.伊藤比呂美『ラニーニャ』

なんとなくブログのタイトルを変えた。以前のタイトルについてかねがね気持ち悪いと思っていたので。 伊藤比呂美は詩人だが、小説もいくつか書いていて、本作は芥川賞候補にもあがった。 まずもって、ああ、詩っぽい~、て感じがある。ろくに詩のことを知ら…

89.西加奈子『うつくしい人』

はじめてちゃんと西加奈子よんだ。 読みやすい。島のゴージャスなホテルに三十路女が一人旅してバーでふたりくらいの変な男と出会うという舞台設定がいい。エンタメっぽいというか定型っぽい書きつけも多いが、光る表現もところどころある。200ページもある…

88.ビートたけし『ホールド・ラップ(ラップ・アップ)』

たけしの小説はじめて読んだが、やっぱおもろい。逐一挿入されるリリックしかり、ギャグベースの文章だが、切実な感じが伝わる。 昼寝て、働く夜中のバイト! 寝ないで暴れた日米安保! みんな卒業、俺だけ迷子! ジャンジャン狂う生活テンポ! 四〇そこらで…

87.石倉真帆『そこどけあほが通るさかい』

最近は乱読乱筆、のつもりだができてたりできてなかったり、慢性的にお金がない、飲んでばかりいるので、女性とも、野郎とも、ひとりの夜は息が止まりそうになる、というのは乱暴すぎる表現、だが遠からず。 『そこどけあほが通るさかい』は今回の群像新人賞…

86.笙野頼子『極楽』

ふとしたときに気づく程度の雨音が、部屋のなかに所在なさを充填していく。 氏が25歳で書いた、群像新人賞受賞のデビュー作。 独特の芸術形態を追及する画家というキャラクターはありふれているが、地獄絵の形象、外界の観察と創作姿勢、どろどろとした思索…

85.今村夏子『こちらあみ子』

太宰治賞を受賞した氏のデビュー作。 「怪物」的少女を主人公にすえた小説で、三人称ながらunreliable tellerの書き方がなされているが、描写材料のとりあわせにささやかな心地よさが通底している。主人公の心情変化の足踏みといびつさ、会話の不通の描き方…

84.多和田葉子『かかとを失くして』

群像新人賞を受賞した氏のデビュー作。(とはいえその以前にドイツ語で小説を書いて賞とかもらっていたらしいけれど。) 奇妙でファンタジックな描写、というよりも感覚、しかし上等な何かが詩的な断片としてつぎつぎと横切り、織りこまれていく。偶発的で一…

83.奥野紗世子『逃げ水は街の血潮』

ひさかたぶりの更新。 小説をかこうかこうと思いながら結局かくことはなく、飲み会やら出会い系やら引っ越しやらにたたみかけられながら、学生最後の一か月はすぎていった。むろん小説や映画にふれることもなかった。 そして、正真正銘のフリーターになった…

82.デミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』

パステルカラーのダイスを転がすみたいに、めまぐるしく色とりどりのカットが展開していく。ミュージカル映画というのは、ミュージカルの挿入の反復によってフィクションの構造性が柔和になる。物語の輪郭線がうすくなる。いやむしろ、力強い破壊によって形…

81.松浦理英子『乾く夏』

デビュー作『葬儀の日』の約1年後に発表された小説。 自傷行為、ジェンダレスな愛情、ある種の選民思想、セックス、性機能不全、そういったさまざまな若気の断片が折り重なった、ふたりの女学生の交流。ここでは何かが、それはありていにいえば「こじらせ文…

80.町屋良平『青が破れる』

文藝賞を受賞した、氏のデビュー作。 全体を通して通俗的な「甘酸っぱさ」を漂わせながらも、確かなる文学。しびれるフレーズが多くみられる。芥川賞受賞作『1R1分34秒』と比較して、持ち味であるテクストの自在な運動はそのコントロールがぞんざいだが、感…

79.古川高麗雄『プレオー8の夜明け』

1970年芥川賞受賞作。「8」はフランス語読みで「ユイット」と読む。 第二次大戦後、戦犯容疑でベトナムに拘留された旧日本兵たちを描く。娯楽のため、檻の中で脚本を書き、演者をあつめ、演劇をやる主人公。設定がおもしろい。死の匂いのする、戦争文学の殺…

78.開高健『裸の王様』

開高健の芥川賞受賞作。 扱っているテーマは児童教育。児童にたいする大人たちの当を得てない思惑を、画塾の先生である主人公は気に食わない。 くりかえし述べられる教育論めいた話にはどこか既視感がある、しかし、その鮮烈な描写はけして風化していない。…

77.松浦理英子『葬儀の日』

松浦理英子氏が20才のときに書いた、文學界新人賞受賞作。つまりデビュー作。 これを、だれがどのように評価できるのだろう。葬儀のさいに依頼される「泣き屋」、「笑い屋」という架空の職業(泣き屋という職業は実際にあるらしい)をとりあつかいながら、思…

76.柴崎友香『春の庭』

ちょっと前の芥川賞作品。 アパートに住む三十代の男を中心に、その隣人たち、周辺の建造物の輪郭を、さらさらと、それでいて柔らかい手触りで描く。たいした筋はない。悪くいえば退屈。がしかし、気づくと、読者は構造を失った不思議な浮遊感のなかに連れて…

75.町屋良平『1R1分34秒』

先日発表された芥川賞受賞作。 わたしは現在町屋駅徒歩5分の場所でシェアハウスをしているが、どうやら町屋良平氏も近所に暮らしているみたい。 筆のにぎりが軽い。感情の噴出、文章の奔流がアクロバティックに展開されるが、バランス感覚が巧みにコントロ…

74.チェーホフ『三人姉妹』

友人に、 「君の彼女は小説の登場人物でいうと誰に似ているんだい」とたずねたところ、 「強いていえばチェホフの『三人姉妹』の三女のイリーナかな」と返答されたため、本作を拝読。 戯曲であるため、作品はほとんどセリフのみで構成されている。 私は戯曲…

73.本当に面白いM-1漫才ベスト10

普段は小説や映画の話ばかりしていますが、お笑いも好きなので、今回は歴代M-1グランプリのネタのなかで個人的なベスト10を発表します。 対象は2018年までのM-1グランプリ。なお、2011~2014年に開催されたTHE MANZAIのネタは対象としていません。 あくまで個…

72.羽田圭介『メタモルフォシス』〜マゾヒストな証券マンの話

中村文則氏が某ネット記事のインタビューで、本作を読んだとき初めて自分より年下の男性作家ですごいと思うやつが現れた、と述べていたため手に取った。 まずもって、SM風俗の人道を逸した肉体的苦痛をともなう調教プレイ、詐欺まがいの手練手管を用いて老人…