文学の凝縮、アイドルの拡散

72.羽田圭介『メタモルフォシス』〜マゾヒストな証券マンの話

 

メタモルフォシス (新潮文庫)

メタモルフォシス (新潮文庫)

 

中村文則氏が某ネット記事のインタビューで、本作を読んだとき初めて自分より年下の男性作家ですごいと思うやつが現れた、と述べていたため手に取った。

 

まずもって、SM風俗の人道を逸した肉体的苦痛をともなう調教プレイ、詐欺まがいの手練手管を用いて老人から資産をむしる小規模証券会社の仕事という、A面B面のようなふたつの舞台自体、たくさんの新鮮な情報をはらんでいて面白い。ふたつの舞台の取り合わせも、単純にうまい。

 

女王様との調教プレイの最中のみならず生活のあらゆる面に横溢した、主人公たちの非人道的なまでに過剰なマゾヒストの欲望の発露も、熱量があり、緊迫感があり、説得力があった。

 

しかし、そういった生々しく凄惨な描写の集積があるにもかかわらず、ラストシーンが大仰に見えた部分もあり、読後感としては案外に軽い、空虚な印象が残った。これは読者の想像力の不足であろうか。