文学の凝縮、アイドルの拡散

15.『幼児狩り』河野多惠子ー性癖の告白

  河野多惠子の『幼児狩り』です。

 40ページくらいの短編。

幼児狩り・蟹 (P+D BOOKS)

幼児狩り・蟹 (P+D BOOKS)

 

 

 河野作品は以前『蟹』を取り上げたことがあります。

ippeinogion.hatenablog.com

 

 本作『幼児狩り』は河野氏のデビュー作のようですね。

 男子児童性愛、SM性癖みたいなのが結構生々しく書かれています。

 あと言うまでもないですが、普通に文章がうまいです。

 以下は、主人公の晶子が知り合いの子供に服をプレゼントして、それをその場で着せたあとに、脱ぐ姿がみたくてなんとか脱がせようとしている場面です。

 晶子は子供の半ボタンをはずすと、小さな半袖から出ているまるい腕に自分の手を這わせてゆき、やわらかい、汗ばんだ間食に吸いつきながら、その二本の腕を交叉させて、それぞれにシャツの裾を掴ませてやった。

「ねえ、ここをもって、そして、ううんと上へ引っぱるんでしょ」

 さあ、今度はかわいらしいお尻のダンスを見なくてはいけない、と晶子はそこで身を引いた。子供はもがきだした。が、残念なことに母親の正代が手をかした。彼女が、後ろの裾をもって引きあげたので、シャツはあっという間に脱げてしまった。

「今みたいにこうして(と晶子は自分の腕を交叉して見せ)、それから裾をもってぱっとね。できるでしょ」

「うん」

 頷くと、子供は両腕を前へ伸ばして、まずそこで交叉しておいて、それを裸のお腹の上へぽんと落した。

「そう」

 と晶子は嬉しさのあまり、久しぶり思うぞんぶんソプラノを張りあげて笑った。(P+D BOOKS 『幼児狩り・蟹』p17)

 なんというか、変わった性癖を告白している小説って、特に主人公が女性のものって、純文学ではあまりないような気がしますけど、どうなんでしょう。

 異常な女性主人公、的なものは私の読んだことのある範囲だと例えば『コンビニ人間』が思いつきますが(コンビニ人間の設定も純文学としては珍しいとも思いますが)、それとも異なり、主人公はわりと正常なんだけど性癖に関して一般的な「気持ち悪さ」を持っているっていうのが河野作品の特徴でしょうか?

 『蟹』では、『幼児狩り』のようなニュアンスでの男子児童への執着と執拗な描写はほとんど見られません、夜中に背中をかゆがる甥っ子にムヒを塗ってあげるシーンがあって、それなどは今思うと男子児童性愛的なものの一端だったなという感じです。

 河野氏ウィキペディアを見ると、「谷崎潤一郎の衣鉢を継ぎ、マゾヒズム、異常性愛などを主題とする」と書いていますね。

 じゃあやっぱり本作『幼児狩り』はかなり彼女の真骨頂というか原点というか、そういう感じなのでしょう。

 

 そういえば以前小川洋子氏の『ホテル・アイリス』を図書館で借りて、結局読まなかったんですが、これも異常性癖(たんにSM?)てきなものを扱っている作品みたいです。

 うーん、なるほど。