文学の凝縮、アイドルの拡散

71.寒川光太郎『密猟者』〜芥川賞史上もっとも激賞された小説のひとつ

 

芥川賞全集 第2巻

芥川賞全集 第2巻

 

 

1940年第10回芥川賞受賞作、寒川光太郎の『密猟者』。

 

まずもって、遠い場所で書かれた文章という印象が強烈であった。それは約80年の時代の隔たりや、北方の狩猟者という舞台設定に起因するのではなく、堅固でありながら奔放自在のレトリックをはらんだ特異な文体によるものと思われる。

 

一見、硬い。読みづらい。がしかし、比喩表現や言葉の取り合わせ方がおそろしく柔軟である。

 

芥川賞選考委員の評価は、のちの古井由吉『杳子』に並ぶ激賞揃い。が、今となっては本作は単行本も入手困難、ほとんど無名の作品と化している。残る作品と残らない作品をわかつものはなにか。

70.『銃』中村文則〜さっぱりとした狂気、破綻した心情

一ヶ月ぶりの更新となりました。

 

じっさい修論に追われ、小説からも映画からもながらく距離をおいていました。 

 

研究および学生生活のおわりを迎え、同時に空白の春が私を包みこみ、かかる立場におかれ無闇な追想にふけったりもしますが、ともあれ、前進しなければなりません。

 

これからは、物語を想像し、表現を推敲し、センスを研磨する、そういった行為に情熱の矛先が傾倒していくだろうと思います。

 

銃 (新潮文庫)

銃 (新潮文庫)

 

2002年新潮新人賞受賞作であり、中村文則氏の処女作。

 

主人公の心情や行為を描写するさいのもってまわったような文体が、序盤はやや不恰好に感じるが、しだいに「さっぱりとした狂気」とでも形容すべきなにかと絡み合い、袋詰めの腕のないザリガニが登場するあたりから、物語世界に強力に引きずり込まれる。不自由な感情の知覚、規範を取り払った原始的な心の動きが、生々しさを加速させていき、終盤はもはや心情そのものが破綻しているかのよう。

 

刑事との会話など、推理小説的なモードを感じる場面もあるが、結局純文学としてすべてが回収されている。

 

引用は、終盤、喫茶店で女としゃべっているシーン。

「だから、そんなこと、どうだっていいだろう? それが、どうしたっていうんだよ。何だっていいじゃないか。そうだよ、何だっていいんだよ、当たり前じゃないか。よく、わからないなあ、ほんとに、わけわかんねえよ、俺が死んだって、君が死んだって、俺の父親が死んだって、そこの誰かが死んだって、死ななくたって、何だっていいじゃないか。そうだろう? 大したことなんて、どこにもないんだ。どこにも、ないんだよ。そんなものは、存在しないんだ。何だかさ、もう、いいじゃないか。とにかく、僕が、いや、僕でも俺でも、どっちでもいいけど、例えばそれが、ここで何かをしても、例えば、このテーブルを、このテーブルをさ」

 私はそこまで行って、突然、恥ずかしくなった。何が恥ずかしいのかはよくわからないが、その場にいられないような、そういう気分になり、というより、そういう気分になりたかったような、よくわからないが、とにかくそこから出たくなり、そのまま席を立った。私は店のレジの辺りに千円札を起き、ウエイトレスに御馳走様でしたと言い、店を出た。(p158, 河出文庫

 

69.テリー・ジョージ『ホテル・ルワンダ』

 

 2004年公開、南アフリカ制作の社会派映画。

 Wikipediaをコピペすると、

「1994年、ルワンダで勃発したルワンダ虐殺によりフツ族過激派が同族の穏健派やツチ族を120万人以上虐殺するという状況の中、1200名以上の難民を自分が働いていたホテルに匿ったホテルマン、ポール・ルセサバギナの実話を基にした物語」だそうです。

 

 まあ前にも書きましたが、とりあえずこういうのはいいですな、ルワンダの風景とか全く知らないし、普段目にしない人種の表情の感じとか、発声のしかたとか、そういうのが新鮮で。

68.行定勲『パレード』〜案外エンタメっぽくない

 

パレード [DVD]

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 2010年公開、吉田修一原作の、シェアハウスしている若者たちの近いようでいて少し距離のある、なんとなく不気味な人間関係を描いた作品です。

 

 吉田修一原作とだけあって、流行りの役者勢揃いという感じのキャストでありながら、ポップさをまといつつもじっと小さいものを積み重ねて名状しがたい何かを浮き上がらせようとしているような、いい感じの雰囲気が通底していました。

 

 ただ、みんなが長時間静止してじっと目線をよこし窓からカメラが引いていくラストシーンは、わざとらしすぎるなと思いました。

 あと、特典映像の、監督がシェアハウスのキャスト5人と作品について語り合ってる映像は、なんともいえない残念さがあった、、、笑

67.堤幸彦『天空の蜂』

 

天空の蜂 [DVD]

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 2015年公開、東野圭吾原作の、原発の上に巨大ヘリを墜落させるぞというテロのサスペンス映画です。

 父親に異常に勧められたから見ましたが、まあ、、、という感じでした。

 映像はきれいでした。

 

 東野圭吾原作の映像作品だったら他のやつの方がいいと思います。

 

 純文学を読むようになる前の時期、高校生や大学1、2年生くらいのころに、ときたま東野圭吾作品に触れていました。

 『白夜行』、『手紙』、『分身』、『赤い指』あたりが印象的です。

 ガリレオシリーズ、加賀恭一郎シリーズはドラマも映画もたぶんほぼ全部みました。

66.フェデリコ・フェリーニ『道』〜午後の日差しの寂しさ

 

道 [DVD]

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 1954年公開のイタリア映画です。

 

 特に何の取り柄もない女性が、むきむきで粗暴な性格の、胸に巻いた鎖を肺を膨らませて引きちぎる芸一本勝負の大道芸人の付き人になって旅をするという白黒映画です。

 

 前に視聴したルーマニア映画もそうですが、こういうのは私に思いつきようのない設定の物語なので、それ自体興味がそそられます。

 

 そして本作は物語の進行から会話の感じから、何から何までしぶいです。

 陽気なふんいきの時間も長いし、人も死んだりするんだけれど、終始なんとも言えずしぶい。

 白黒がそういう効果をもたらしているのかもしれませんが、この古い映画特有の感じ、いつもより早く帰宅する学校の帰り道の午後の日差しみたいな寂しさはなんなのでしょうか。

 

 短いけれど以上。

65.クリスティアン・ムンジウ『4ヶ月、3週と2日』〜パルム・ドールを受賞したルーマニア映画

 

 映画はずっと駅前のTSUTAYAで旧作200円を借りていたのですが、近くのGEOでは旧作100円ということで、最近はもっぱらGEOを利用するようになりました。

 

 本作は2007年公開のルーマニア映画で、パルム・ドールを獲っているようです。

 独裁政権下のルーマニアを舞台に、大学の女子寮にクラス主人公が、ルームメイトの違法中絶手術の手伝いをする、という話です。

 

 洋画の社会派コーナーを物色していたとき本映画を見つけ、パッケージのすみにパルム・ドール受賞作品と書いていました。

 ルーマニアの社会派映画でパルム・ドールを受賞しているという時点で、もうみざるをえませんでした。

 

 知らない世界に対する一定の接触感が得られるため、外国の社会派映画をみることは最低限の充実を保証してくれます。

 これは私にとっては重要なことです。

 本映画もまず前提としてそういうよさがあります。

 

 そして映画そのもの、登場人物の会話の間合いであったり、風景の重量感もなんかいい感じでした。

 あとワンシーンワンシーンが長いのが特徴ですね。

 特に印象に残っているシーンは、主人公の彼氏の家のホームパーティーで親や親戚が食卓をかこんでしゃべっているシーン。

 

 以上です。