文学の凝縮、アイドルの拡散

79.古川高麗雄『プレオー8の夜明け』

 

プレオー8の夜明け (P+D BOOKS)

プレオー8の夜明け (P+D BOOKS)

 

1970年芥川賞受賞作。「8」はフランス語読みで「ユイット」と読む。

 

第二次大戦後、戦犯容疑でベトナムに拘留された旧日本兵たちを描く。娯楽のため、檻の中で脚本を書き、演者をあつめ、演劇をやる主人公。設定がおもしろい。死の匂いのする、戦争文学の殺伐さを帯びながら、ひょうきんな出来事がたくさん起こる。主人公の思考の流入は、地の文の語尾の自在な変化としてあらわれ、案外に大胆である。鉄格子が暑さに朦朧とする。泥と汗と、何かの腐敗が鼻をさして目が覚めるような心地。

 

 私のタオルは、タオルというよりは襤褸雑巾だったな。布が弱っているので、絞って水をきるというわけにはいかないのだった。絞ると切れてしまうのだ。だから私は、絞るかわりに握り締める。おにぎりを握るときのように。

 すると指の間から、襤褸が飛び出すんだ。垢と、ふやけた繊維とが溶け込んだラーメンの汁のような水が、ぬるぬると滲み出てくるんだ。(小学館P+D BOOKS p37)