文学の凝縮、アイドルの拡散

81.松浦理英子『乾く夏』

 

葬儀の日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

葬儀の日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

 

デビュー作『葬儀の日』の約1年後に発表された小説。

 

自傷行為、ジェンダレスな愛情、ある種の選民思想、セックス、性機能不全、そういったさまざまな若気の断片が折り重なった、ふたりの女学生の交流。ここでは何かが、それはありていにいえば「こじらせ文学少女」的な思想を多分にまとっているのであるが、そういった関連の主張がきわめて直接的に描かれようとしている。大胆なやりかたで、何かを、捕まえようとしている。夏は、永遠に終わらないように思える。

 

「私が怖くない? またあなたを殺そうとしないとも限らないでしょう? つき合っていられる?」

 幾子は平気だった。

「大丈夫。いつもバンドエイドを持っとくことにしたから。」

 彩子は笑った。

「赤チンもね。」

 あの出来事は二人の結束を強化したようなものである。殺してくれようともしない人間など幾子には信用できなくなった。何故なら、彩子は相手が幾子だからこそ真剣になったのだから。悠志にわかるわけがない。(河出文庫p94)