デビュー作『葬儀の日』の約1年後に発表された小説。
自傷行為、ジェンダレスな愛情、ある種の選民思想、セックス、性機能不全、そういったさまざまな若気の断片が折り重なった、ふたりの女学生の交流。ここでは何かが、それはありていにいえば「こじらせ文学少女」的な思想を多分にまとっているのであるが、そういった関連の主張がきわめて直接的に描かれようとしている。大胆なやりかたで、何かを、捕まえようとしている。夏は、永遠に終わらないように思える。
「私が怖くない? またあなたを殺そうとしないとも限らないでしょう? つき合っていられる?」
幾子は平気だった。
「大丈夫。いつもバンドエイドを持っとくことにしたから。」
彩子は笑った。
「赤チンもね。」
あの出来事は二人の結束を強化したようなものである。殺してくれようともしない人間など幾子には信用できなくなった。何故なら、彩子は相手が幾子だからこそ真剣になったのだから。悠志にわかるわけがない。(河出文庫p94)