文学の凝縮、アイドルの拡散

59.全く無駄のない〜山田洋次『幸福の黄色いハンカチ』

 

幸福の黄色いハンカチ [DVD]

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 1977年公開、われわれの親世代はみんな観てる映画みたいですね。

 

 非常によくできた、絶妙なバランス感覚のエンタメ作品だと思いました。

 テンポがよく、3人の登場人物のそれぞれがキャラ立ちしていて、高倉健演じる元囚人の過去が小出しにされていく速度もほどよく、視聴者を惹きつけたまま物語は突き進み、クライマックスのシーンも華々しいです。

 無駄なシーンが全然ないという印象を持ちました。

 

 あと昭和の美学感がめちゃくちゃ前面に押し出されてますね。

 あるいは本作品の方がそういった文化の形成に先じているのでしょうか。

 芸術はとりまく社会の影響下で評価が変動する部分がある、というのは例えば映画『君の名は。』にしても「突然隕石が落ちてくる」という事態は東日本大震災を経験していたからこそ受け入れられる展開であったみたいな話はよく聞きますが、本作における「女がじっと耐え忍び男を待ち続ける」みたいな美学も、もしかすると社会によって印象がずいぶん違うものかもしれません。

 

 大団円において「美学」を武器にする物語というのは、時代・社会の広い海の波打ち際に基礎を立てているようなもので、エンタメ作品は多少なりともそういった繊細さを抱えなければならないのだなあ、などと思いました。