1955年公開の映画です。
成瀬巳喜男の一番有名な作品ということで借りました。
林芙美子の小説『浮雲』が原作らしく、浮雲というのは、二葉亭四迷の小説にもありますが、広辞苑を引くと「物事の落ち着き定まらないもののたとえ」と載っていますね。
舞台は終戦直後の日本で、主人公の中年と何人かの女との関係を描いた話、という感じでしょうか。
最近鑑賞している映画すべてそうですが、これも古い白黒映画なので私にとっては新鮮な風景ばかりで、それ自体惹きつけられます。
全体のトーンもなんというか、暗く、静かで、じっとりした、そういうのが通底した雰囲気があります。
ひとつ思ったことは、大仰な演技についてです。
古い映画って、役者の演技がいわゆるそれらしい、ある種紋切り型のものであることが多いと思います。
本作もそうですが、涙を流すシーンとか、文字どおり「肩をガクリと落とす」演技をします。
それは、昔の人たちがそういう仕草を実際の生活で行っていたからというよりも、たぶん当時はまだ観劇の延長として映画が撮影されていたため、舞台役者的な大げさなリアクションが残っていたんだろうなと推測します。
そうして現代になるにつれて、基本的には役者の一挙手一投足はリアリズムが強まっていったんですかね、たぶん。
しかしこの大げさな演技については、それらの連なりが浮かび上がらせる独特な世界観みたいなものがあって、結構好きです。
まあ小説とかは、映画と比較するとだいぶ会話の口調に作品ごとの幅があって、それが小説の世界観に大きく寄与します。
それに比べると、映画やドラマはあんまり言葉や演技に幅がない気がするのですが、あるいは私がよく知らないだけでしょうか。
まとまりのない感想ですが、とりあえず本作はよかったです。