1940年第10回芥川賞受賞作、寒川光太郎の『密猟者』。
まずもって、遠い場所で書かれた文章という印象が強烈であった。それは約80年の時代の隔たりや、北方の狩猟者という舞台設定に起因するのではなく、堅固でありながら奔放自在のレトリックをはらんだ特異な文体によるものと思われる。
一見、硬い。読みづらい。がしかし、比喩表現や言葉の取り合わせ方がおそろしく柔軟である。
芥川賞選考委員の評価は、のちの古井由吉『杳子』に並ぶ激賞揃い。が、今となっては本作は単行本も入手困難、ほとんど無名の作品と化している。残る作品と残らない作品をわかつものはなにか。