文学の凝縮、アイドルの拡散

2018-01-01から1年間の記事一覧

39.エスプリ的な文章〜堀江敏幸『熊の敷石』

本作は堀江敏幸の2000年下半期芥川賞受賞作品です。フランスで生活する日本人の話で、本人もフランス文学者、わりと私小説的な作品らしいです。筆致は軽やか、突然時間軸を遡ったり、場面が切り替わったり、内省的な文章と風景描写が混じっている感じもあっ…

38.日本統治下の朝鮮の名士の家に住み込む女中〜パク・チャヌク『お嬢さん』

TSUTAYAにおけるエロティックのジャンルの映画です。 タイトル通りですが、日本統治下の朝鮮の名士の家に住み込む女中が主人公の話です。 2016年公開の映画。 韓国併合下と言っても戦争を感じさせる風景はほとんどなくて、その豪奢な家の中に物語の軸が据え…

37.ロサンゼルスの不良たちの話〜『アン・ハサウェイ 裸の天使』

アン・ハサウェイ/裸の天使 [DVD] 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル 発売日: 2012/05/09 メディア: DVD クリック: 19回 この商品を含むブログ (2件) を見る 近所のTSUTAYAでエロティックというジャンルからいくつか借りました。 そのうちのひとつ…

36.なんか普通によかった〜今村昌平『うなぎ』

うなぎ 完全版 [DVD] 出版社/メーカー: ケイエスエス 発売日: 2004/01/23 メディア: DVD 購入: 1人 クリック: 27回 この商品を含むブログ (14件) を見る 1997年公開の今村昌平監督作品で、パルム・ドール賞を受賞した作品です。 ちなみにパルム・ドール…

35.自己暗示から解放された実存主義の提示〜乃木坂46『帰り道は遠回りしたくなる』

さきほど乃木坂46の新曲MVが公開されました。 西野七瀬のラストシングルということもあって、グループの表題曲とは思えないほど西野七瀬しか映っていません。笑 では映画的なノリでMVを鑑賞してみましょう。

34.詩的断片の重なり〜アンドレイ・タルコフスキー『鏡』

ロシアの映画監督で最も著名とされているタルコフスキーの映画を観ました。 1975年公開の本作は、彼の自伝的作品らしく、彼の撮った映画の中でも特に難解な作品と評されているみたいですね。 鏡【デジタル完全復元版】 [DVD] 出版社/メーカー: アイ・ヴィ・…

33.永沢さんにはなりたくない

世間では、村上春樹の小説はネタ扱いされたり、おしゃれを気取っていてつまらないとか批判されることが多々ありますが、多少なりとも文学をかじっている人たちの間で、村上春樹のことを非難する人はひとりたりとも見たことがありません。 毎年ノーベル文学賞…

32.鉄パイプとおっぱい〜スタンリー・キューブリック『時計じかけのオレンジ』

時計じかけのオレンジ [DVD] 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ 発売日: 2010/04/21 メディア: DVD 購入: 9人 クリック: 51回 この商品を含むブログ (71件) を見る 小説ではなく映画の方です。 公開当時は自殺だか暴力事件だか、いろいろ社会への「…

31.風景風景また風景ー是枝裕和『幻の光』

幻の光 [DVD] 出版社/メーカー: バンダイビジュアル 発売日: 2003/04/25 メディア: DVD クリック: 39回 この商品を含むブログ (57件) を見る 是枝監督のデビュー作です。 是枝監督と言えば『そして父になる』が超絶有名ですが、最近『万引き家族』がカンヌの…

30.ファンタジーの描写方法〜安部公房『壁』

ブログを始めて約4ヶ月がたち、これでちょうど30本目の記事となりました。 最近は映画の感想が続いていましたが、今回は原点回帰(?)して小説の感想を書きます。 壁 (新潮文庫) 作者: 安部公房 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1969/05/20 メディア: …

29.純文からエンタメへの架橋ー北野武『アウトレイジ』

夜の12時前から同居人らと居間でトランプギャンブルを始めると、途中やよい軒に行った以外はほとんど休みなく、翌日の昼の3時ごろまで続きました。 私は1万4千円ほど勝ちました。 そうして各々の部屋に戻って、窓の外の仄明るい光の差し込む部屋で、ひ…

28.演技と文体ー小津安二郎『東京物語』

東京物語 [DVD] 出版社/メーカー: コスモコンテンツ 発売日: 2011/02/26 メディア: DVD 購入: 3人 クリック: 11回 この商品を含むブログ (6件) を見る 『浮雲』を観たあと、TSUTAYAの返却期限(返却予定日の翌日の正午)が迫っていたため3時間だけ寝て、本…

27.大仰な演技ー成瀬巳喜男『浮雲』

浮雲 [DVD] 出版社/メーカー: 東宝 発売日: 2005/07/22 メディア: DVD 購入: 1人 クリック: 172回 この商品を含むブログ (123件) を見る 1955年公開の映画です。 成瀬巳喜男の一番有名な作品ということで借りました。 林芙美子の小説『浮雲』が原作らし…

26.景色は文学をつくるかー市川崑『ビルマの竪琴』

ビルマの竪琴 [DVD]出版社/メーカー: 日活発売日: 2002/11/22メディア: DVD クリック: 40回この商品を含むブログ (26件) を見る リモートインターンが佳境。 エラーの連呼、アプリつくるのって難しいんだね。 アプリ開発とかそういう作業をひととおり終えた…

25.際立つ女性陣ー黒澤明『椿三十郎』

椿三十郎 [東宝DVDシネマファンクラブ] 出版社/メーカー: 東宝 発売日: 2013/08/02 メディア: DVD この商品を含むブログ (2件) を見る 黒澤明監督作品『椿三十郎』を観ました。 殺陣シーンの多いエンタメの時代劇です。 少し調べたところによると、戦後はGHQ…

24.長編小説を書くということースコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』村上春樹訳

本作を読んでいる最中から、私は小説について、小説を書くことについて、そしてまた私が小説を書くということについて、絶えず考え続けていた。 ずいぶん哀しくて、ずいぶん嬉しくて、全体としてずいぶん沈んだ気持ちになった。 本作によって抱いた感懐の半…

23.銃と遊戯の融和ー北野武『ソナチネ』

ソナチネ [DVD] 出版社/メーカー: バンダイビジュアル 発売日: 2007/10/26 メディア: DVD 購入: 6人 クリック: 94回 この商品を含むブログ (97件) を見る 最後の更新から半月以上空いてしまった。 このブログの更新が滞るということは、その期間私が本を読ん…

22.北野武『HANA-BI』を観て

9月も半分が過ぎて、最近は夜に窓を開けるとひんやりした冷気が入り込んでくるようになりした。 どうでもいい話ですが、今日近所のドン・キホーテ(セルバンテスの小説ではなく総合ディスカウントストアの方)で座椅子を買いました。 シェアハウスを始めて…

21.読みさしで終わった2つの小説についてー『送り火』と『春、死なん』

近所の某巨大図書館では、新刊の雑誌は貸し出し不可。 なので、新刊の文芸誌はこの図書館に行けば必ず置いてあって読むことができるので(基本的に閲覧している人がいない)、重宝しています。 で数日前に、文藝春秋に掲載の『送り火』を読み始めました。 こ…

20.人はなぜ自己表現をしたがるのか

と突然大仰に題してみたものの、こういうことに関連した哲学や心理学などの学問的素養があるわけでもないし、この場でがっつりまともな文章が書ける自信は全くない。 寂しさを埋めるため、というナイーブな回答で一蹴するのはとりあえず控えておいて、まあ、…

18.『セヴンティーン』大江健三郎ー勃起させるもの

図書館で『大江健三郎自選短篇』を借りて、『セヴンティーン』を読みました。 大江健三郎自選短篇 (岩波文庫) 作者: 大江健三郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2014/08/20 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (24件) を見る 大江の本でちゃんと全部読…

17.本ブログの設立目的と今後の方針について

こんにちは、誰か。 このブログの設立目的は主に、以下の3つでした。 1.筆力を慣らしておく。 2.好きなことについて考えたことを文章化して残しておきたい。 3.あわよくばブログでお金を稼ぎたい。 それで約2ヶ月間で15記事ほど、主に読んだ本の感…

16.『優しいサヨクのための嬉遊曲』島田雅彦ー愉快な文章

現芥川賞選考委員、島田雅彦氏のデビュー作です(氏は本作を含め六度芥川賞候補になり落選するという最多記録タイを保持しています)。 島田雅彦芥川賞落選作全集 上 (河出文庫) 作者: 島田雅彦 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2013/06/05 メディア:…

15.『幼児狩り』河野多惠子ー性癖の告白

河野多惠子の『幼児狩り』です。 40ページくらいの短編。 幼児狩り・蟹 (P+D BOOKS) 作者: 河野多惠子 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 2017/03/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 河野作品は以前『蟹』を取り上げたことがあります。 ippei…

14.『鏡のなかのアジア』谷崎由依

鏡のなかのアジア 作者: 谷崎由依 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2018/07/05 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 先日発売された、谷崎由依氏の短篇集です。 運良く図書館で借りられました。 谷崎由依氏を初めて読んだのが、本短篇集収録の『天…

13.食の描写について

小説における食の描写にはその作品の特徴がよくあらわれる気がする。 作品によって、そもそも食の描写の多さに差があるし、選択される料理の種類や、食べる行為を描写するさいの追いかけ方など、よく観察するといろいろ違いがあって面白い。 これは単に作品…

12.『三匹の蟹』大庭みな子ーアクロバットな文章

アクロバットな文章を書く作家というのがいます。 まあ、アクロバット、と一口に言ってもいろんな種類があると思いますが、私の言いたいのは、なんというか、普通の論理感覚だとそういう文章にならないだろう、と思っちゃうような文章のことです。 冷静に一…

11.『葉桜と魔笛』太宰治ー真骨頂の女性独白

太宰治の『葉桜と魔笛』を読みました。 青空文庫でも読めます。 10ページ程度の短い小説ですが、『斜陽』などにも見られる太宰のお家芸、品が良くて感情的でつらつらとした感じの女性独白の文体が存分に発揮されています。 (ページ番号は、ちくま文庫版『…

10.『蟹』河野多惠子ー瑣末な執着心

河野多惠子の『蟹』を読みました。 80枚の短編、1963年上半期の芥川賞受賞作です。 幼児狩り・蟹 (P+D BOOKS) 作者: 河野多惠子 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 2017/03/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 読もうと思ったきっかけは、図書館…

9.乃木坂46 6th Year Birthday Live 感想ーシンクロする錯視

打ち上げられた花火に、胸のすく思いがした。 不思議な引力が働いているようだった。 変色する火の粉がカーブを描いたあとには、くすんだ煙が少し滞留して、残らず夜空に溶けた。 ステージから飛び出したひとつひとつの光景は、私の心の内まで流れて込んで、…